瓜食(は)めば 子等(こども)思ほゆ 粟食めば 況(ま)して偲ばゆ 何処より 来りしものぞ 眼交(まなかい)に もとな懸りて 安眠(やすい)し寐(な)さぬ 銀(しろがね)も金(くがね)も玉も何せむに勝れる宝子に及(し)かめやも
万葉歌人 山上 憶良
山上憶良が子を思う切々の歌である。その前書に「お釈迦さまも衆生を思うこと、わが子を思うが如しと説き給うた。愛は親が子を思うほど深いものはないということだ。お釈迦さまのような偉い人でもそうなのだから、ましてやわれわれ凡夫が子を愛さぬものがあろうか。
瓜を食べれば子供のことが思われる。粟を食べれば一層子供が偲ばれてならぬ。こんなにいとしい奴は一体どこから来たのだろうか。眼底にちらついて夜もろくろく眠れないほどだ。
金銀や宝玉は貴い宝物だというが、子供ほどのすぐれた宝物が世にあろうか。